
脇腹や足の裏を誰かにくすぐられると、思わず身体をよじって笑ってしまう。
ところが、同じ場所を自分の手で触ってみても、それほどくすぐったくありません。
触っている場所は同じ。
皮膚に触れているという点も同じ。
それなのに、「自分で触る」と「他人から触られる」では、なぜこれほど感じ方が違うのでしょうか?
実はこの何気ない現象から、私たちの脳に備わった非常に高度な機能が見えてきます。
それが、これから自分の身体に起こることを予測する力です。
脳は身体を動かす前から「次の感覚」を予測している
例えば、右手で自分の左腕を触ってみましょう。
私たちは、
「右手をここまで動かそう」
と一つひとつ意識しなくても、自然に腕を動かすことができます。
このとき脳は筋肉へ運動の指令を出しています。
しかし、それだけではありません。
自分が出した運動指令をもとに、
「この動きをすれば、次にこんな感覚が入ってくるはず」
という予測も行っていると考えられています。
右手を左腕へ近づければ、
どのあたりに触れるのか。
いつ触れるのか。
どのような刺激が加わるのか。
脳は実際に刺激が入ってくるよりも前から、その結果を予測しているのです。
予想通りの刺激は「弱く」感じる
ここで登場するのが、「感覚減衰(sensory attenuation)」という現象です。
自分の動きによって生じる感覚が予測通りだった場合、脳はその感覚への反応を弱めることがあります。
つまり、
自分で身体を動かす
↓
どんな刺激が起こるか脳が予測する
↓
予測した通りの刺激が入ってくる
↓
その感覚が弱められる
という流れです。
これが、自分で自分をくすぐっても、他人にくすぐられるほど強く感じない理由の一つと考えられています。
この仕組みは、くすぐったさだけに存在する特殊なものではありません。
私たちが日常生活の中で、「自分が生み出した刺激」と「外から入ってきた刺激」を区別するためにも重要な仕組みだと考えられています。
「少し遅らせる」と、自分でもくすぐったくなる?
この現象については、非常に面白い実験があります。
1998年、University College Londonなどの研究者らは、自分の手の動きに連動して別の装置が手のひらへ刺激を与える仕組みを使い、くすぐったさを調べました。
自分が手を動かしたタイミングと、実際に皮膚へ刺激が加わるタイミングが一致している場合、くすぐったさは比較的弱く感じられました。
ところが、自分の動きと刺激の間に時間差をつけると、くすぐったさが強くなりました。
さらに、刺激が加わる位置を予測からずらした場合にも、感じ方が変化しました。
これは非常に興味深い結果です。
脳は単に、
「自分で触ったから刺激を弱くする」
のではありません。
「いつ、どこに、どのような刺激が来るのか」
まで予測し、実際に入ってきた感覚と照らし合わせている可能性があるのです。
予測と現実が一致すれば、刺激は弱く感じられる。
しかし予測が外れると、刺激がより「外から来たもの」として感じられる。
私たちが意識していないところで、脳はこんな細かな計算を行っています。
他人からの刺激は「完全には予測できない」
では、なぜ他人にくすぐられるとあれほど反応してしまうのでしょうか。
大きな違いの一つが、予測可能性です。
自分で自分を触るなら、
「今から触る」
ことを脳は知っています。
しかし他人から触られる場合、
いつ触られるのか。
どこを触られるのか。
どれくらいの強さなのか。
どのように指が動くのか。
そのすべてを自分の脳が完全に予測することはできません。
だからこそ、同じ皮膚への刺激でも感じ方が変わります。
これは、今回の画像のように、
自分でくすぐる → ほとんど平気
他人からくすぐられる → 思わず反応する
という違いにもつながっています。
「くすぐったい」という非常に身近な感覚から、脳が常に未来を予測しながら身体をコントロールしていることが見えてくるのです。
「触れられる感覚」は意外と奥深い
この脳の仕組みを知ると、「人から触れられる」という行為そのものも少し違って見えてきます。
自分で頭や肩を揉むとき、自分の脳はこれから起こる動きをある程度予測できます。
一方、誰かに施術してもらう場合には、次にどこへ触れられるのか、どの程度の圧が加わるのかを自分で完全に決めることはできません。
もちろん、「予測できない刺激だからマッサージの方が効果的」ということではありません。
くすぐりの研究結果を、そのままマッサージの効果へ置き換えることはできないからです。
ただ、自分で身体に触れる場合と、人から触れられる場合では、脳にとって感覚の受け取り方が同じではないというのは、とても興味深いところです。
La HEADでは、完全個室の落ち着いた空間で、頭だけでなく首・肩・腕まで丁寧にケアしています。
自分で頭を揉むのとは少し違う、人の手に身を任せる時間。
次にどこへ心地よい刺激が入るのかを考える必要もなく、目を閉じてゆっくりと過ごす。
普段は自分で身体を動かし、自分で判断し、自分で次の行動を決め続けているからこそ。
ときには「自分で何もしなくていい時間」を楽しんでみてはいかがでしょうか。
皆さまのご来店を心よりお待ちしております。


