
「毎日4〜5時間しか寝ていないけれど、全然平気」
そんな人を「ショートスリーパー」と呼ぶことがあります。
著名な経営者などが「1日数時間しか寝ない」と紹介されることもあり、「睡眠時間は努力すれば短くできるのでは?」と思ったことがある方もいるかもしれません。
では、本当に人間には、普通の人より短い睡眠時間で十分な人が存在するのでしょうか。
結論からいうと、
本物のショートスリーパーは存在すると考えられています。
しかも近年、その背景には単なる生活習慣ではなく、遺伝子が関係している可能性が次々と明らかになっています。
そして2025年には、新たな遺伝子変異についての研究も発表されました。
「睡眠時間が短い人=ショートスリーパー」ではない
まず一番大切なのが、
「睡眠時間が短い人」と「ナチュラルショートスリーパー」は別物
ということです。
特に、
眠いけれど頑張って起きている人は、ショートスリーパーではありません。
仕事のために5時間で起きる。
目覚ましを何度も鳴らして起きる。
眠気をカフェインでごまかしている。
平日は短時間睡眠だけれど、休日になると長く寝る。
こうした場合は、単に睡眠時間を削っている可能性があります。
研究では、遺伝的な背景を持つ自然な短時間睡眠として、Familial Natural Short Sleep(FNSS:家族性自然短時間睡眠)が研究されています。
FNSSの人たちは、意図的に睡眠時間を削っているわけではありません。
自然に短時間で目が覚め、それでも日中に強い眠気や明らかな機能低下がみられないという特徴があります。
つまり、
「4〜5時間しか寝ないように頑張っている人」ではなく、「そもそも短い睡眠で足りる人」
なのです。
睡眠時間だけを見て、ショートスリーパーかどうかを判断することはできません。
本物のショートスリーパーは人口の何%?
では、ナチュラルショートスリーパーはどれくらいいるのでしょうか。
インターネットでは「人口の1%未満」「1〜3%程度」といった数字を見かけることがあります。
しかし、睡眠遺伝学に関する学術レビューでは、FNSSの正確な人口割合は不明とされています。
つまり、現時点では、
「人口の○%が本物のショートスリーパー」
と科学的に確定しているわけではありません。
一方で、これまで特定の遺伝子変異が確認されたケースや研究対象となっている人は限られています。
そのため、生まれつき短い睡眠で十分に休息でき、日中にも問題なく活動できるナチュラルショートスリーパーは、かなり珍しい存在と考えられています。
毎日5時間しか寝ていないからといって、「自分はショートスリーパーだ」とは限らないのです。
ショートスリーパーには「遺伝子」が関係する?
ショートスリーパー研究が大きく進んだきっかけのひとつが、2009年に『Science』で発表された研究です。
研究チームは、自然に睡眠時間が短い家族を調べ、DEC2(BHLHE41)という遺伝子の変異を発見しました。
その後も研究が進み、
ADRB1
NPSR1
GRM1
など、自然な短時間睡眠と関連する遺伝子変異が報告されています。
つまり、ナチュラルショートスリーパーは単に「睡眠に強い人」というより、睡眠の必要量や覚醒を調節する生物学的な仕組みそのものに違いがある可能性が考えられているのです。
2025年、新たに「SIK3」の変異を発見
そして2025年、新たな研究が『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に発表されました。
中国科学院やカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)などの研究チームは、自然な短時間睡眠を示す人から、SIK3遺伝子のN783Y変異を報告しました。
SIK3は、もともと睡眠の調節との関係が研究されてきた遺伝子です。
さらに研究チームが、この変異を持つマウスを調べたところ、睡眠時間が短くなることが確認されました。
もちろん、マウスの結果をそのまま人間に当てはめることはできません。
それでも、人間のナチュラルショートスリーパーから特定の遺伝子変異が見つかり、さらに動物実験でも睡眠時間への影響が確認されたことは興味深い結果です。
これまで発見されてきた複数の遺伝子と合わせると、
「生まれつき必要な睡眠量が少ない人が存在する」
という考えを支持する証拠が積み重なってきています。
なぜ短い睡眠でも平気なの?
ここで気になるのが、
「なぜ普通の人より短く眠っても大丈夫なのか?」
ということです。
現在の研究では、単純に「睡眠に強い」というより、睡眠恒常性や睡眠の必要量を調節する仕組みそのものが異なっている可能性が研究されています。
そのため、
「普通の人が8時間かけている睡眠を4時間で済ませている」
と単純に考えるより、
「そもそも身体や脳が必要としている睡眠量が違う可能性がある」
と考えた方が近いでしょう。
ただし、その詳しい仕組みについては、まだ分かっていないことも多くあります。
頑張って起きることと、ショートスリーパーはまったく違う
ここは改めて強調しておきたいポイントです。
本物のショートスリーパーは、
「眠いけれど気合で起きている人」ではありません。
自然に目が覚め、本人にとって必要な睡眠がそこで終わっています。
一方で、
「まだ寝たい」
「朝がつらい」
「日中眠い」
「休日は長く寝てしまう」
という状態で短時間睡眠を続けているなら、身体はもっと睡眠を必要としている可能性があります。
つまり、
4時間眠って自然にスッキリ起きる人と、4時間で無理やり起きている人は、睡眠時間が同じでも中身はまったく違う
ということです。
「ショートスリーパーになるトレーニング」は別の話
本物のショートスリーパーが存在するからといって、
「睡眠時間を少しずつ削れば、自分もショートスリーパーになれる」
という意味ではありません。
研究されているナチュラルショートスリーパーは、努力して短時間睡眠を身につけた人ではなく、もともと自然に短時間睡眠を示す人たちです。
一般的な成人では、慢性的な睡眠不足によって注意力や判断力、気分などに影響が生じることが知られています。
さらに注意したいのは、睡眠不足が続くと本人がその状態に慣れてしまい、自分ではパフォーマンスの低下を十分に自覚できない場合もあることです。
「5時間睡眠でも仕事はできているから大丈夫」とは、必ずしも言い切れません。
大切なのは「何時間まで削れるか」ではない
睡眠時間には個人差があります。
そのため、すべての人にまったく同じ睡眠時間が必要というわけではありません。
一方で、短く眠れること自体を目標にする必要もありません。
朝、自然に起きられるか。
日中に強い眠気がないか。
休日に大幅な寝だめをしていないか。
集中力や判断力が落ちていないか。
こうした自分自身の状態を見ることも大切です。
ショートスリーパー研究が教えてくれるのは、
「人間は睡眠を削って鍛えれば短時間睡眠になれる」ということではなく、「人によって必要な睡眠量を決める生物学的な仕組みに違いがある可能性がある」ということ。
毎日4〜5時間しか寝ていないからといって、ショートスリーパーとは限りません。
むしろ、
「眠いのに頑張って起きているなら、それはショートスリーパーではない」
と考えた方が分かりやすいでしょう。
「自分は何時間まで睡眠を削れるだろう?」
ではなく、
「自分の身体と脳には、どれくらいの睡眠が必要なのだろう?」
と考えることが、睡眠との上手な付き合い方につながります。
La HEADでは今後も、睡眠や脳、休息に関する最新研究を、日常生活に取り入れやすい形でご紹介していきます。


