
オンライン会議に参加しながらSlackを確認する。
メールを書いている途中で、届いたチャットに返信する。
資料を作りながら電話に出る。
忙しいビジネスパーソンほど、複数の仕事を同時に進める「マルチタスク」が日常になっているのではないでしょうか。
一見すると、限られた時間で多くの仕事を処理できる効率的な働き方に見えます。
ところが認知心理学の研究では、注意が必要な複数の仕事を行う場合、私たちは必ずしもすべてを完全に「同時処理」しているわけではありません。
実際には、一つの仕事から別の仕事へ、注意や頭の中のルールを素早く切り替えているケースが多くあります。
そして、この「切り替え」そのものにもコストがかかります。
脳は「同時処理」より「高速で切り替えている」
この現象は、心理学ではTask Switching(タスクスイッチング)として長く研究されています。
2001年、米国のミシガン大学のDavid Meyer教授らは、若年成人を対象に、計算問題や図形の分類など異なる課題を切り替える実験を行いました。
その結果、同じ課題を続ける場合と比べて、別の課題へ切り替えた際には処理に余分な時間がかかる「Switch Cost(切り替えコスト)」が確認されました。
さらに、課題が複雑になるほど切り替えに伴う時間的なコストも大きくなりました。
つまり、
「2つの仕事を行き来しているから2倍効率的」
とは限らないのです。
一回ごとのロスは小さくても、メール、Slack、会議、資料作成と何十回も切り替えていれば、その小さな負担が繰り返されることになります。
前の仕事が「頭に残る」こともある
さらにビジネスパーソンにとって興味深いのが、「Attention Residue(注意の残留)」という研究です。
2009年、現在はワシントン大学ボセル校 School of BusinessのSophie Leroy教授が発表した実験では、仕事を別のタスクへ切り替えても、注意の一部が前のタスクに残ってしまうことがあると報告されました。
特に、まだ終わっていない仕事から別の仕事へ移った場合、前の仕事から十分に注意を切り離せず、次の仕事のパフォーマンスが低下することが確認されています。
たとえば、重要な資料を作っている途中にSlackが届く。
返信して資料へ戻っても、
「さっきの返信で大丈夫だったかな」
と、頭の一部ではまだSlackについて考えている。
身体は資料作成に戻っていても、注意が完全には戻っていない可能性があるということです。
マルチタスクが得意な人なら問題ない?
「自分は普段からマルチタスクをしているから慣れている」
という方もいるかもしれません。
しかし、2009年にスタンフォード大学の研究チームが発表した研究では、日常的に多くのメディアを同時利用する人と、そうでない人の認知機能が比較されました。
その結果、頻繁にメディアをマルチタスクする人たちは、少ない人たちと比べて、無関係な情報の影響を受けやすく、タスク切り替えの成績でも優れているとはいえない結果となりました。
もちろん、この研究だけから「マルチタスクを続けると集中力が低下する」と因果関係を断定することはできません。
それでも、「たくさん同時にやっている人ほど、切り替えも得意になる」と単純には言えないという興味深い結果です。
重要な仕事ほど「シングルタスク」にする
もちろん、すべての「ながら作業」が悪いわけではありません。
単純な作業と別の活動を組み合わせても、大きな問題にならない場合もあります。
注意したいのは、高い集中力を必要とする仕事を何度も中断することです。
企画を考える。
重要な文章を書く。
数字を確認する。
経営判断をする。
相手の話を深く理解する。
こうした仕事をするときは、
通知を一時的に切る。
メールやSlackを閉じる。
「30分はこの仕事だけ」と時間を区切る。
会議中は別の作業をしない。
といったシングルタスクの時間を意識的につくることが、結果として効率につながる可能性があります。
「休むとき」までマルチタスクにしない
そして、これは仕事だけの話ではありません。
通勤しながらSNS。
食事をしながらYouTube。
テレビを見ながらスマートフォン。
休憩しながら仕事のチャットを確認する。
私たちは仕事以外の時間にも、複数の情報を同時に受け取ることが増えています。
La HEADでは、完全個室の落ち着いた空間でパソコンやスマートフォンから離れ、目を閉じて、頭だけでなく首・肩・腕までゆっくりとケアしています。
たくさんのことを同時にこなすことだけが、仕事の速さではありません。
集中するときは、一つに集中する。
そして休むときは、次の情報を入れずに休む。
常に複数のことを処理する時代だからこそ、「一つのことだけをする時間」を意識的につくることが、仕事のパフォーマンスと自分自身のコンディションを考えるうえでも大切なのかもしれません。


