日本人はなぜ眠れていない?柳沢正史教授が語る日本の「睡眠不足」

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「もっと睡眠をとった方がいい」

そう分かっていても、仕事や家事、勉強などに追われ、気づけば睡眠時間を削ってしまう。日本では、そんな生活が珍しくありません。

2026年8月、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢正史教授が、CNN Internationalの特集「Japan’s sleep crisis: Can tech help?」に出演しました。

そこで取り上げられたのは、単なる「寝不足対策」ではありません。

特に子どもや若者の睡眠、そして「長時間労働を美徳とする文化」が日本人の睡眠に与える影響など、日本の睡眠不足を社会や文化の問題として考える内容でした。 

日本の睡眠不足は「個人の問題」だけではない

「夜更かしをしなければいい」
「スマートフォンを見る時間を減らせばいい」
「もっと早く寝ればいい」

睡眠不足というと、本人の生活習慣の問題として考えられがちです。

もちろん、日々の過ごし方を見直すことは大切です。しかし、仕事の終了時間や学校の始業時間が決まっていれば、本人が自由に動かせる時間には限界があります。

帰宅が遅くなっても翌朝起きる時間は変わらない。すると、最後に削られやすいのが睡眠です。

CNNの特集でも、日本で広がる睡眠テクノロジーや最新研究とともに、長時間働くことを価値あるものとして捉えてきた文化が睡眠にどう影響しているのかが取り上げられました。 

日本の睡眠不足を考えるには、「本人が何時に寝たか」だけでなく、そもそも十分に眠れる生活になっているのかを見る必要があります。

「寝る時間を削って頑張る」は本当に効率的?

日本では、

「寝る間を惜しんで勉強する」
「忙しいから睡眠を削る」
「若いうちは多少寝なくても大丈夫」

といった考え方を耳にすることがあります。

しかし柳沢教授は以前から、睡眠を削って勉強することは逆効果で、よく眠っている学生の方が成績が良いというデータがあると紹介しています。 

2025年に柳沢教授が桜蔭学園で行った講演でも、睡眠不足は学業成績だけでなく、洞察力や企業の業績、疾病、免疫など幅広い領域に悪影響を及ぼすと説明されています。 

つまり、

「活動時間を増やすために睡眠を削る」

「成果を出せる時間が増える」

とは限らないということです。

起きている時間の長さだけでなく、その時間に脳や身体がどのような状態で活動できるかまで考える必要があります。

子どもは「早く寝なさい」だけでは解決できない

今回のCNN出演で柳沢教授が特に焦点を当てていたのが、子どもや若者の睡眠です。 

柳沢教授は、思春期から20代にかけて体内時計が後ろにずれ、夜型になりやすいことを解説しています。

そのため海外では、子ども側だけを変えるのではなく、学校側の時間を変えるという取り組みも行われています。

柳沢教授が紹介しているアメリカの「Start School Later」の事例では、高校の始業・終業時刻を約2時間遅らせたところ、生徒の成績が良くなったと報告されています。 

これは非常に興味深い話です。

「もっと勉強しなさい」「もっと早く寝なさい」と子どもだけに努力を求めるのではなく、睡眠を確保しやすい環境そのものをつくるという考え方だからです。

柳沢教授が2025年に桜蔭学園で行った講演では、中学生に必要な標準的な睡眠時間は約9時間15分、高校生では約8時間15分と説明されています。 

学校、部活動、塾、宿題、スマートフォンなどで夜まで予定が続き、翌朝は早く起きなければならない。

子どもの睡眠不足も、「本人が夜更かしするから」の一言だけでは説明できない問題なのです。

睡眠不足は、社会全体のパフォーマンスにも関係する

睡眠不足の影響は、子どもの成績だけにとどまりません。

2026年8月に柳沢教授が出演したBSテレ東の睡眠特集では、「睡眠不足がもたらす19兆円の経済損失」もテーマとして取り上げられました。 

この19兆円という数字自体を「柳沢教授自身が算出した」と捉えるのは適切ではありませんが、睡眠不足を単なる「眠い」「疲れた」という個人レベルの問題だけではなく、学習や仕事、社会全体の生産性にも関係する問題として考える必要があることが分かります。

柳沢教授も、睡眠不足によって脳のパフォーマンスが低下することや、メンタル不調、メタボリック症候群、認知症リスクなどとの関係について繰り返し解説しています。 

2025年の桜蔭学園での講演では、さらに興味深いデータとして、睡眠不足によって利他的な行動が抑制されることも紹介しています。 

睡眠は、自分一人の体調だけの問題ではないのかもしれません。

勉強する、働く、考える、人と接する。

私たちが日中行っているさまざまな活動の土台に、睡眠があります。

「どう眠るか」の前に「眠る時間はあるか」

最近は、「睡眠の質」という言葉をよく目にするようになりました。

寝具を変える、入浴する、照明を暗くする、スマートフォンを控えるなど、睡眠環境を整える工夫も大切です。

しかし、その前に確認したいことがあります。

そもそも、十分に眠る時間を確保できているでしょうか。

どれだけ睡眠の「質」を高めようとしても、必要な睡眠時間そのものが不足していれば、工夫だけですべてを補うことはできません。

そして、十分な睡眠時間を確保するためには、個人の努力だけでは解決できない場合もあります。

仕事の時間、学校の始業時間、家庭での過ごし方、そして「睡眠を削って頑張ること」を評価してきた社会の価値観。

今回CNN Internationalが日本の問題を「Japan’s sleep crisis」として世界に紹介したことは、睡眠を個人の自己管理だけではなく、社会全体の問題として考えるきっかけにもなります。 

「どうすればよく眠れるか」の前に、「私たちは十分に眠れる生活をしているか」。

子どもの学習でも、大人の仕事でも、「睡眠を削って頑張る」という考え方そのものを、一度見直してみてもよいのかもしれません。

La HEADでは今後も、柳沢正史教授をはじめとする睡眠研究や最新の知見を、日常生活に取り入れやすい形でご紹介していきます。

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