
一時期、大きなブームになった「水素水」
「疲労回復にいい」
「抗酸化作用がある」
「美容やアンチエイジングにもいい」
そんなイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。
一方、ブームになった当時は、人を対象とした質の高い研究がまだ少なく、どこまで健康効果があるのかは十分に分かっていませんでした。
では、その後10年ほどで研究は進んだのでしょうか。
実は現在、水素水はスポーツ・運動分野を中心にヒト研究が増えています。
結論からいうと、「何にでも効く水」という状況ではありません。
しかし、特に運動パフォーマンスや運動中の疲労に関する研究では、興味深い結果が出始めています。
そもそも水素水とは?
水素水とは、通常の水に分子状水素(H₂)を溶かしたものです。
水素は非常に小さな分子で、体内で起こる酸化還元反応や炎症などとの関係から研究されてきました。
ただし、
水素水を飲む
水素ガスを吸う
水素風呂に入る
という方法は、それぞれ別の介入です。
そのため、「水素について研究で効果があった」というだけでは、水素水にも同じ効果があるとは言えません。
さらに水素は抜けやすい気体なので、実際に飲む時点でどれだけ水素が残っているかも重要です。
研究では、水素濃度を管理した条件で実験が行われています。
2026年、1.6ppmの水素水でスプリント能力に変化
2026年9月、華南師範大学の研究チームが、男子大学アスリート13人を対象にランダム化クロスオーバー試験を行いました。
参加者は運動前に、
水素水280mL(水素濃度約1.6ppm)
または普通の水を飲み、その後、
6秒間の全力自転車スプリントを7回
繰り返しました。
その結果、水素水を飲んだ条件では、
平均パワーが高い
運動を繰り返した際のパワー低下が小さい
運動後のHRVの回復が早い
運動3分後の血中乳酸が約1mmol/L低い
という結果が確認されました。
ただし、最大パワーやすべての指標が改善したわけではありません。
さらに対象者はわずか13人で、男性の大学アスリートだけです。
つまり、
「水素水を飲めば運動能力が上がる」
と一般化するには、まだ小さな研究です。
それでも、2026年にはナショナルレベルのフィンスイマーを対象とした研究でも、400mのタイムが水素水条件で約0.6%改善しました。一方、50mスプリント、乳酸、主観的運動強度などには明確な差がありませんでした。
「全部の運動能力が上がる」というより、特定の運動条件で小さな差が出る可能性があるという段階です。
27研究をまとめると「効くもの・効かないもの」が見えてくる
一つひとつの小さな研究だけではなく、複数の研究をまとめた解析もあります。
2024年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、27報・597人のデータがまとめられました。
その結果、水素の摂取によって、
下肢の瞬発力:小さな改善
主観的運動強度(RPE):低下
血中乳酸:低下
が確認されました。
一方で、
有酸素持久力
VO₂max
30秒の最大無酸素運動
筋力
には明確な改善が確認されませんでした。
また、2024年の別のメタ解析では、水素摂取によって抗酸化能の指標には小さな改善がみられた一方、運動によって生じる酸化ストレスそのものを明確に減少させたとは言えませんでした。
これは非常に重要なポイントです。
水素水は、
「強力な抗酸化作用で身体の酸化を消してくれる水」
と単純に説明できるものではありません。
現在の研究を見る限り、運動時の身体反応を少し調整する可能性として考える方が近そうです。
美容やアンチエイジングについては?
「水素水=美容・アンチエイジング」というイメージもあります。
ただし、この分野のヒト研究は運動分野ほど多くありません。
2021年には、70歳以上の男女40人を対象に、水素水を6か月間飲んでもらうランダム化パイロット試験が行われています。
使用されたのは、1日500mL・水素濃度15ppmという特殊な高濃度水素水でした。
水素水群では、テロメア長や一部の脳代謝指標、椅子立ち上がり能力などに変化がみられました。
しかし、その他の多くの評価項目には群間差がありませんでした。研究自体も40人のパイロット試験です。
美容についても、2025年には15人を対象に水素水を皮膚へ直接使用した研究があり、毛穴や肌指標の一部に変化が報告されています。
ただし、対照群のない15人の研究であり、しかもこれは水素水を飲んだ研究ではありません。
そのため現時点では、
「水素水を飲むと肌が若返る」
「アンチエイジングになる」
といえるほどの根拠はありません。
現時点では「美容目的」より「運動分野」の研究が進んでいる
ここまで研究を見ていくと、水素水へのイメージが少し変わるかもしれません。
一時期は、
美容
アンチエイジング
疲労回復
健康維持
と非常に幅広い効果が期待されていました。
現在もこれらの分野で研究は続いていますが、ヒトで比較試験が積み重なっているのは、スポーツ・運動分野が比較的多い状況です。
特に、
繰り返し行う高強度運動でのパワー低下
血中乳酸
主観的な運動強度
一部の瞬発的パフォーマンス
などについて、改善を示した研究があります。
一方、
持久力や筋力が確実に高まるわけではなく、美容やアンチエイジングについても根拠はまだ限定的
です。
そのため現在の研究から考えるなら、
「美容や若返りのための特別な水」と考えるより、運動時のパフォーマンスや身体反応への影響が研究されている飲料
として捉える方が、科学的な現状には近いでしょう。
もちろん、水素水は睡眠、食事、トレーニング、通常の水分補給を置き換えるものではありません。
水素水そのものを目的にするというより、基本的なコンディショニングを整えたうえで、本当に運動パフォーマンスに違いが出るのか。
今後さらに大規模な研究が増えることで、その位置づけもより明確になっていきそうです。


