
「睡眠は長く取るほど身体にいい」と考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、近年の研究では、睡眠時間は短すぎても長すぎても、健康上のリスクと関連する可能性が指摘されています。
2026年9月19日、国際学術誌『npj Aging』に、18,282人を約9年間追跡し、睡眠時間と加齢に伴う身体機能の低下との関係を調べた研究が発表されました。
その結果、睡眠時間が7時間未満の人だけでなく、9時間を超える人でも、身体が衰弱した状態である「フレイル」との関連が強くなることが明らかになりました。
今回は、この大規模な追跡研究をもとに、健康的に年齢を重ねるための睡眠時間について解説します。
睡眠時間と健康の関係が注目される理由
睡眠は、脳や身体の疲労回復だけでなく、記憶の整理、免疫機能、ホルモン分泌、代謝の調節など、さまざまな生理機能に関わっています。
慢性的な睡眠不足は、日中の集中力低下や疲労感だけでなく、生活習慣病などの健康リスクとも関連することが知られています。
一方で、睡眠時間が長ければ長いほど健康に良いというわけでもありません。
これまでの疫学研究では、睡眠時間と健康リスクの関係は、短時間睡眠と長時間睡眠の両方でリスクが高くなる「U字型」を示すことがあると報告されています。
ただし、長時間睡眠そのものが健康を悪化させるのか、それとも健康状態の悪化によって睡眠時間が長くなっているのかについては、十分に解明されていません。
今回の研究は、こうした睡眠時間と健康の関係を、加齢による身体機能の低下という観点から調べたものです。
約18,000人を約9年間追跡した最新研究
2026年9月に発表された研究では、中国の大規模な健康調査「China Health and Retirement Longitudinal Study」のデータが使用されました。
対象となったのは、45歳以上の男女18,282人で、追跡期間の中央値は8.9年間でした。
研究チームは、参加者が申告した睡眠時間を、7時間未満、7〜9時間、9時間超の3つに分類し、フレイルとの関連を分析しました。
フレイルとは、加齢に伴って筋力や体力、心身の活力が低下し、病気や転倒、介護が必要な状態に移行しやすくなることを指します。
今回の研究では、健康状態に関する44項目を組み合わせた指標によって、フレイルの有無が評価されました。
追跡期間中に新たにフレイルと判定された人は、2,125人(全体の11.6%)でした。
研究チームは、睡眠時間の違いがフレイルの発生とどのように関係するのかを、統計的に検証しました。
短すぎても長すぎてもリスクが高い?研究結果
分析の結果、7〜9時間眠っている人と比較して、睡眠時間が短い人と長い人の両方で、フレイルとの関連が認められました。
具体的には、7〜9時間のグループを基準にすると、次のような結果でした。
- 7時間未満:フレイルのオッズが約2.05倍
- 9時間超:フレイルのオッズが約1.45倍
ここでいうオッズは、フレイルになる確率そのものではありません。そのため、7時間未満の人が必ず2倍の確率でフレイルになるという意味ではありません。
さらに、睡眠時間を連続的な数値として分析したところ、フレイルのオッズはU字型の関係を示し、最も低い値となったのは約7.1時間でした。
研究チームは、今回の対象者において、約7〜8時間が比較的良好な睡眠時間の範囲である可能性を示しています。
ただし、これは「7.1時間眠ればフレイルを予防できる」という意味ではありません。
今回の研究は観察研究であり、睡眠時間とフレイルの因果関係を直接証明したものではないためです。
また、睡眠時間は自己申告であることや、健康状態などの要因が結果に影響した可能性も考慮する必要があります。
なぜ長時間睡眠も健康リスクと関連するのか
睡眠不足が健康に影響することは比較的イメージしやすい一方で、長時間睡眠と健康リスクの関係には疑問を感じる方もいるかもしれません。
長時間睡眠と健康状態の悪化との関連については、いくつかの可能性が考えられています。
例えば、慢性的な疾患、身体活動量の低下、抑うつ症状、睡眠の質の低下などが、睡眠時間の長さと関連している可能性があります。
また、睡眠中に何度も目が覚めるなど、十分な休養が得られていない場合、結果的に睡眠時間や寝床で過ごす時間が長くなることも考えられます。
つまり、長く眠ることが直接的に健康を悪化させているとは限らず、身体の不調が睡眠時間に反映されている可能性もあるのです。
重要なのは、睡眠時間という数字だけで健康状態を判断しないことです。
実際に、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、睡眠時間には個人差があることを前提に、睡眠によって休養が得られている感覚(睡眠休養感)を重視しています。
健康的に年齢を重ねるために大切な睡眠習慣
今回の研究では約7時間が最も良好な結果となりましたが、必要な睡眠時間は年齢や体質、生活環境などによって異なります。
厚生労働省では、成人については個人差を踏まえながら、6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保することを勧めています。
一方、高齢者については、長時間寝床で過ごすことによる健康リスクも考慮し、床上時間が8時間以上にならないことを目安にするよう示しています。ただし、床上時間と実際の睡眠時間は異なります。
日常生活では、睡眠時間だけでなく、朝に十分な休養感があるか、日中に強い眠気がないか、生活リズムが安定しているかにも目を向けることが大切です。
また、毎朝なるべく同じ時間に起きること、日中に適度な身体活動を取り入れること、就寝前の強い光を避けることなども、良好な睡眠習慣につながります。
十分な時間眠っているにもかかわらず、強い眠気や疲労感が続く場合には、睡眠障害などが隠れている可能性もあるため、医療機関への相談が必要です。
今回の研究が示しているのは、単純に長く眠れば良いということではなく、自分に必要な睡眠時間を確保しながら、質の良い休息を得ることの重要性です。
健康的に年齢を重ねるためにも、睡眠時間という数字だけにとらわれず、毎日の眠りと向き合っていきたいですね。

