
仕事で大切な説明を聞いたあと。
勉強で新しいことを覚えたあと。
本を読み終えて、少し時間が空いたとき。
無意識にスマートフォンを手に取っていませんか?
SNSを開いたり、ニュースを読んだり、短い動画を見たり。
今は、わずかな空き時間にも新しい情報を入れられる時代です。
しかし脳にとっては、「何も新しい情報を入れない時間」にも意味があることが研究から分かってきています。
「何もしない時間」を調べた研究
研究では、何かを学習したあと、別の課題などを行わず静かに休むことを「Wakeful Rest(覚醒安静)」と呼びます。
眠るわけではありません。
目を閉じたり、静かに座ったりして、起きたまま新しい刺激をできるだけ入れずに過ごします。
2025年に『Psychonomic Bulletin & Review』で発表されたメタ分析では、37研究・63実験をまとめ、学習後の覚醒安静が記憶にどのような影響を与えるのかが検討されました。
その結果、学習後に別の課題を行った場合と比較して、静かに休んだ場合には、その後の記憶成績が良い傾向が確認されました。
興味深いことに、この効果は学習直後だけではなく、7日後の記憶を調べた研究でも確認されています。
「覚えるためには何かをする」というイメージがありますが、覚えた“あと”の過ごし方も重要なのかもしれません。
記憶は「覚えた瞬間」に完成するわけではない
なぜ、何もしないことが記憶と関係するのでしょうか。
ポイントになるのが、「記憶の固定(memory consolidation)」です。
新しい情報を覚えたとしても、その瞬間にすべてが安定した長期記憶として保存されるわけではありません。
その後、脳の中では新しく得た情報を安定させていく過程が続きます。
ところが、覚えた直後から次々と新しい情報を処理すると、それまでの記憶に別の情報が干渉する可能性があります。
反対に、学習後に静かな時間をつくれば、新しい刺激による干渉が少なくなります。
これが、覚醒安静が記憶の保持に役立つ可能性を説明する一つの考え方です。
では「すぐスマホ」は記憶に悪い?
ここで気になるのがスマートフォンです。
大切なことを覚えたあとにSNSや動画を見ると、せっかくの記憶が邪魔されてしまうのでしょうか。
実は、ここは単純ではありません。
現在の研究から、「学習直後にスマホを見ると記憶力が低下する」と断定できるわけではありません。
2025年に『Scientific Reports』で発表された研究では、学習後に静かに休む条件だけでなく、SNSを利用した条件でも記憶の固定がみられました。
つまり、
覚醒安静=良い
スマホ=悪い
と単純に分けられるほど、脳の仕組みは簡単ではないのです。
重要なのは、スマートフォンそのものを悪者にすることではありません。
研究からより確実に言えるのは、「何かを覚えたあとに、すぐ別の認知課題を行うより、静かに休むことが記憶保持にプラスに働く可能性がある」ということです。
現代は「何もしない時間」が少なくなった
電車を待つ数分。
エレベーターを待つ時間。
仕事と仕事の間。
食事が運ばれてくるまで。
以前なら何となくぼんやりしていた時間にも、今ではスマートフォンがあります。
もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
ただ、私たちの生活から「新しい情報が入ってこない時間」が少なくなっているのは確かでしょう。
会議が終わったら、すぐメール。
勉強が終わったら、すぐSNS。
読書を終えたら、すぐ動画。
脳は一日中、次から次へと情報を処理しています。
だからこそ、大切なことを覚えたあとくらいは、数分だけ次の情報を入れない時間をつくってみる。
目を閉じる。
窓の外を見る。
静かに座る。
それだけでも十分です。
「何もしない」は、本当に何もしていない?
外から見れば、ぼーっとしているだけ。
生産性がなく、時間を無駄にしているように感じるかもしれません。
しかし脳の中では、その直前に入ってきた情報に関わる処理が続いている可能性があります。
「何もしない=脳が何もしていない」ではない。
これは、情報に囲まれて生活する現代人にとって、覚えておきたいポイントではないでしょうか。
何かを覚えるために、さらに情報を足す。
それだけではなく、ときには情報を入れない時間をつくることも、記憶にとって意味がある。
仕事や勉強のあと、すぐスマートフォンを手に取る前に、ほんの数分だけ何もしない。
そんな小さな「余白」を、日常の中につくってみてはいかがでしょうか。
La HEADでは今後も、睡眠や休息をはじめ、脳と日常生活にまつわる研究をわかりやすくご紹介していきます。


