
怖い夢を見て目が覚めた朝。
「何か悪いことが起こる前兆なのでは?」
「この夢には、何か意味があるのでは?」
気になって、つい夢占いを検索したことがある方もいるのではないでしょうか。
蛇の夢は金運、歯が抜ける夢は不安の表れ、追いかけられる夢はストレスのサイン――。
さまざまな解釈がありますが、こうした夢の内容から本人の内面や未来を読み解くことに、科学的な根拠はあるのでしょうか。
睡眠研究の第一人者である筑波大学・柳沢正史教授は、この疑問についてかなり明確に答えています。
柳沢教授の答えは「ない、と断言して問題ありません」
2026年1月にTBS「Nスタ」で夢について質問された柳沢教授。
「夢占いというものもありますが、内面を暗示しているなどがあるのですか?」という趣旨の質問に対して、
「ない、と断言して問題ありません」
と答えています。
つまり、「この夢を見たから○○が起こる」「この夢はあなたの心理状態が○○である証拠」といった、夢占いでよく見かける一対一の解釈を裏付ける科学的根拠は確認されていません。
もちろん、夢に日中の経験や感情、記憶などが反映されること自体はあります。
しかし、それと「特定の夢には決まった意味がある」という話は別です。
悪い夢を見たからといって、悪い出来事の前兆だと心配する必要はなさそうです。
そもそも、なぜ私たちは夢を見る?
夢については、実は現在の科学でも分かっていないことがたくさんあります。
柳沢教授によると、鮮明なストーリーや感情を伴う夢は、主にレム睡眠のときに見られます。
レム睡眠では脳の一部が起きているときに近い活動をする一方、身体は眠っているという特徴的な状態になります。
そして、柳沢教授が強調しているのが、
「レム睡眠=浅くて質の悪い睡眠」ではない
ということです。
レム睡眠も私たちに必要な睡眠の一部であり、鮮明な夢を見ること自体を「よく眠れていない証拠」と考える必要はありません。
2026年9月の別の解説では、私たちは一晩に4〜5回ほど夢を見ているものの、基本的にはその多くを忘れ、たまたま覚えているものを「夢を見た」と認識していると説明しています。
では、なぜ「嫌な夢」を見るの?
ここからが夢の面白いところです。
夢占いには科学的根拠がない一方で、「夢そのものには何らかの役割があるのではないか」という研究は続いています。
その一つが「脅威シミュレーション理論(Threat Simulation Theory)」です。
簡単にいえば、夢の中で危険な状況を疑似体験することで、現実世界で危険に遭遇したときのために脳が“予行演習”しているのではないか、という考え方です。
実際、過去の研究では、強い脅威を経験した子どもの夢に、より多くの脅威的な出来事が現れたという報告もあります。
柳沢教授も、ネガティブな夢について、現実で起こり得る「やばい状況」を予行演習し、それがストレスへの対応に関係しているのではないかという考え方を紹介しています。
ただし、これは現在も研究されている一つの学説です。
脅威シミュレーション理論に合わない結果を報告した研究もあり、「悪夢には危険への予行演習という機能がある」と確定したわけではありません。
夢を覚えている=眠りが浅かった、でもない
「今日は夢をたくさん見たから、眠りが浅かった」
これもよく聞く話です。
しかし柳沢教授は、レム睡眠について決して単純な意味での「浅い睡眠」ではなく、大切な睡眠だと説明しています。
さらに興味深いのは、夢を見たことと、夢を覚えていることも同じではないという点です。
私たちは睡眠中に何度も夢を見ていますが、その多くは起床後に忘れてしまいます。
そのため、
「夢を覚えていない=夢を見なかった」
「夢を覚えている=眠りが浅かった」
と単純には判断できません。
夢を見たことだけで、その日の睡眠の良し悪しを決める必要はないのです。
悪い夢を見ても「夢で良かった」でいい
夢占いとして「この夢には○○という意味がある」と未来や心理状態を決めつけることには、現在のところ科学的な裏付けはありません。
一方で、夢そのものについては、記憶や感情、睡眠中の脳活動などとの関係が世界中で研究されています。夢と記憶の固定化との関係についても研究されていますが、現時点では結果が一貫しているわけではありません。
つまり、
「夢占いに科学的根拠がない」=「夢には何の意味もない」
というわけでもないのです。
なぜ私たちは夢を見るのか。
なぜ楽しい夢より、嫌な夢を鮮明に覚えていることがあるのか。
まだ分かっていないことが多いからこそ、夢は睡眠科学の中でも面白いテーマなのかもしれません。
柳沢教授は悪い夢について、必要以上に気にする必要はないとしたうえで、非常に分かりやすい言葉で締めています。
「夢で良かったと思ってください」
怖い夢を見て目が覚めた朝も、「何かの前兆かも」と一日中気にするより、
「夢で良かった」
そう考えて、いつもの一日を始めるくらいがちょうどいいのかもしれません。
La HEADでは今後も、睡眠や脳にまつわる身近な疑問を、科学的な研究や専門家の解説をもとにご紹介していきます。


