徹夜明けの脳は「ワイン1本飲んだ状態」と同じ?

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「仕事が終わらないから、今日は睡眠時間を削ろう」

忙しいときほど、真っ先に削られやすいのが睡眠です。

睡眠を1時間削れば、確かに起きていられる時間は1時間増えます。しかし、その1時間によって翌日の集中力や判断力まで落ちてしまったら、本当に効率が良いと言えるのでしょうか。

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢正史教授は、睡眠不足によるパフォーマンス低下について、非常に分かりやすい例を紹介しています。

一晩完全に徹夜した状態は、血中アルコール濃度0.1%程度の状態に匹敵するほど、パフォーマンスが低下する。

これは一体、どのくらいの状態なのでしょうか。

1.一晩の徹夜で「酔った状態」に近いパフォーマンスに

柳沢正史教授は、厚生労働省のインタビューの中で、一晩徹夜したときのパフォーマンスについて、血中アルコール濃度0.1%程度の「完全に酔っぱらった状態」に相当すると説明しています。

別のインタビューでは、血中アルコール濃度0.1%について、ワイン1本、あるいは生ビールのロング缶3本程度を飲んだ状態というイメージでも紹介しています。

もちろん、徹夜すると実際に体内のアルコール濃度が上がるわけではありません。

ここで比較されているのは、注意力や反応速度などのパフォーマンス低下です。

この話の背景にある代表的な研究の一つが、2000年に『Occupational and Environmental Medicine』に発表された研究です。

研究では39人を対象に、長時間起き続けたときとアルコールを摂取したときの認知・運動パフォーマンスを比較しました。

その結果、17〜19時間起き続けた段階で、一部のパフォーマンスは血中アルコール濃度0.05%の状態と同等か、それ以上に低下しました。

さらに覚醒時間が長くなると、血中アルコール濃度0.1%時に相当するレベルまで低下することが示されています。

つまり、「眠いけれど頑張れば何とかなる」と感じていても、脳の処理能力は自分が思っている以上に落ちている可能性があるのです。

2.実は怖いのは「徹夜」だけではない

「さすがに徹夜はしないから、自分には関係ない」

そう思った方もいるかもしれません。

しかし、睡眠研究でさらに興味深いのが、少しずつ睡眠不足を積み重ねた場合です。

2003年に学術誌『Sleep』に発表された有名な研究では、健康な成人48人を対象に、1日の睡眠機会を4時間・6時間・8時間などに分け、最大14日間にわたって認知パフォーマンスを調べました。

4時間睡眠、6時間睡眠のグループでは、日を追うごとに注意力などの認知パフォーマンスが低下。

特に重要なのは、6時間以下の睡眠機会が続いただけでも、その低下が日々蓄積していったことです。

研究全体では、慢性的に6時間以下の睡眠機会が続くことで、最終的には1〜2晩完全に徹夜した場合に匹敵するほどの認知パフォーマンス低下が確認されています。

毎日まったく寝ていないわけではありません。

それでも、睡眠不足は少しずつ積み重なっていくのです。

3.「6時間睡眠に慣れた」は、本当に慣れた?

この研究でもう一つ興味深いのが、本人の感覚と実際のパフォーマンスが一致しないことです。

睡眠時間を4時間または6時間に制限すると、認知パフォーマンスは日を追うごとに悪化していきました。

ところが、本人が感じる眠気は、それと同じようには悪化し続けませんでした。

つまり、

「最近は6時間睡眠でも平気になった」

と感じていても、脳のパフォーマンスまで元通りとは限らないのです。

柳沢教授も、慢性的な睡眠不足について、本人が眠気に慣れてしまい、自分のパフォーマンス低下に気づきにくくなる問題を繰り返し解説しています。

これは仕事をしている人にとって、かなり重要なポイントです。

強烈な眠気があれば「今日は寝不足だから調子が悪い」と気づけます。

しかし、自分では普通だと思っているのに、判断力や注意力は落ちている。

慢性的な睡眠不足では、こちらの方が厄介なのかもしれません。

4.睡眠を削ると、本当に「使える時間」は増える?

睡眠を1時間削れば、数字の上では活動時間が1時間増えます。

しかし、仕事で重要なのは「何時間起きていたか」だけではありません。

集中する。判断する。間違いに気づく。考える。反応する。

こうした能力まで含めて考える必要があります。

特に運転や機械操作など、一瞬の判断や反応が安全に直結する場面では、睡眠不足によるパフォーマンス低下を軽視できません。

そしてこれは、危険を伴う仕事だけの話でもありません。

資料をつくる、数字を確認する、人と話す、アイデアを考える、重要な決断をする。

日常の仕事でも、私たちは一日中、脳を使っています。

「起きている時間が長い」ことと、「高いパフォーマンスで使える時間が長い」ことは、同じではありません。

睡眠時間を削って仕事の時間を増やしたつもりが、翌日の仕事の質まで落としてしまうのであれば、結果として効率が悪くなる可能性もあります。

5.忙しいときほど、睡眠も「予定」に入れる

もちろん、仕事や育児、生活の事情によって、どうしても睡眠時間を確保できない日はあります。

一度寝不足になったからといって、必要以上に心配する必要はありません。

大切なのは、睡眠不足が続いている状態を「自分は慣れているから大丈夫」と考えないこと。

柳沢教授が紹介する「徹夜すると、酔った状態に近いほどパフォーマンスが低下する」という話は、睡眠が単なる休憩時間ではないことを、とても分かりやすく示しています。

仕事が忙しくなると、

「睡眠を削って、もう少し頑張ろう」

と考えてしまいがちです。

しかし、本当に翌日の仕事の質まで考えるのであれば、

しっかり眠ることも、仕事の一部。

そんな考え方を持っておくことも大切なのではないでしょうか。

La HEADでは今後も、睡眠や脳、日々のコンディションに関する研究を、日常生活に取り入れやすい形でご紹介していきます。

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