
車が通る音。
外を歩く人の声。
家族が動く生活音。
エアコンや家電の音。
「うるさくて眠れない」というほどではなくても、寝室には意外と多くの音があります。
では、自分では気にならず眠っている場合、その音は睡眠に影響しているのでしょうか?
そして、耳栓をして眠ることに意味はあるのでしょうか?
2026年に睡眠医学誌『SLEEP』で発表された研究では、夜間の環境騒音が睡眠に与える影響と、耳栓やピンクノイズによってその影響を軽減できるのかが詳しく調べられました。
眠っていても、脳は周囲の音に反応している
私たちは眠ると意識がなくなるため、外の世界から完全に切り離されたように感じます。
しかし、睡眠中の脳が周囲からの刺激を完全に遮断しているわけではありません。
例えば、大きな物音で突然目が覚めることがあります。
一方で、目が覚めるほどではない音でも、睡眠中の脳や睡眠の構成に影響を与える可能性があります。
つまり、
「音が聞こえた記憶がない=睡眠に影響していない」
とは限らないのです。
2026年の研究では「深い睡眠」が減少
今回の研究では、健康な成人25人が睡眠研究室で複数の夜を過ごし、脳波などを測定する終夜睡眠検査が行われました。
研究チームは夜間に環境騒音を発生させ、その際の睡眠を詳しく分析。
その結果、環境騒音にさらされた条件では、深いノンレム睡眠(N3)が減少することが確認されました。
N3は、脳波にゆっくりとした大きな波が現れることから「徐波睡眠」とも呼ばれる、睡眠の中でも深い段階です。
本人が「途中で何度も起きた」と感じていなくても、周囲の音によって睡眠の構成が変化する可能性があるということです。
では、耳栓をするとどうなる?
そこで研究チームが調べたのが「耳栓」です。
結果は興味深いものでした。
耳栓を使用すると、環境騒音によって生じた睡眠への悪影響の多くが軽減されました。
ここで大切なのは、
耳栓そのものが睡眠を深くするわけではない
ということです。
耳栓をすれば、脳に直接働きかけて深い睡眠が増える、という話ではありません。
むしろ、
「睡眠を邪魔する音を減らすことで、本来の睡眠を守る」
と考える方が分かりやすいでしょう。
「ピンクノイズ」とは?
今回の研究では、耳栓だけでなく「ピンクノイズ」も調べられました。
ピンクノイズとは、「ザーッ」という低めで比較的穏やかに聞こえる一定のノイズ音です。
雨や滝のような自然音に近い印象を持つ人もいます。
似たものに「ホワイトノイズ」がありますが、ピンクノイズは高い周波数になるほどエネルギーが弱くなるため、一般的にホワイトノイズよりも低音寄りで柔らかく感じられます。
こうした一定の音を流すことで、車の音や話し声など、突然聞こえてくる音を目立ちにくくする。
これが「音を音で隠す=マスキング」という考え方です。
睡眠用の動画やアプリなどで使ったことがある方もいるかもしれません。
「音を消す」のと「音を足す」のは同じではない?
ところが今回の研究では、意外な結果も確認されました。
ピンクノイズを使用した条件では、REM睡眠が減少しました。
つまり、
「周囲の音が気になるなら、一定の音を流して隠せばいい」
とは単純に言えないようです。
耳栓は外から入ってくる音そのものを小さくする方法。
一方、ピンクノイズは別の音を追加して、周囲の音を目立ちにくくする方法です。
どちらも「騒音対策」として使われますが、睡眠中の脳にとっては同じではない可能性があります。
もちろん、この研究だけで「ピンクノイズは睡眠に悪い」と結論づけることもできません。
ただ、「睡眠用の音だから、流しておけば必ず睡眠に良い」というわけではないことは覚えておきたいポイントです。
耳栓は、どんな人に向いている?
今回の結果から考えると、耳栓を試す価値がありそうなのは、特に寝室の騒音が気になる人です。
例えば、道路や線路が近い、家族と生活時間が違う、集合住宅で周囲の生活音が聞こえる、旅行先のホテルで物音が気になる、といったケースです。
一方、もともと静かな寝室で問題なく眠れている人が、睡眠の質を上げるためだけに無理に耳栓を使う必要はありません。
また、耳栓をしても大きな騒音を完全に遮断できるわけではありません。
「耳栓=睡眠改善グッズ」というより、「騒音という睡眠の邪魔を減らす道具」
と考えるのがよさそうです。
良い睡眠は「足す」より「邪魔を減らす」
睡眠の質を良くしたいと思うと、
新しい寝具を買う。
サプリメントを飲む。
睡眠用の音楽を流す。
など、「何かを足すこと」を考えがちです。
しかし、睡眠環境では逆の発想も大切です。
明るすぎる光を減らす。
暑すぎる・寒すぎる環境を整える。
そして、余計な音を減らす。
以前ご紹介した睡眠研究の第一人者・柳沢正史教授の「睡眠は減点法」という考え方にも通じます。
耳栓も、眠りを無理に深くするためのものではありません。
自分の睡眠を邪魔しているものが「音」なのであれば、それを一つ取り除く。
そんなシンプルな睡眠環境の見直しから始めてみるのもよいかもしれません。
La HEADでは今後も、睡眠や脳、休息に関する研究を、日常生活に取り入れやすい形でご紹介していきます。


